なぜ良い商品でも儲からないのか?薄利多売から高付加価値モデルへ転換する経営戦略
収益構造・経営戦略

なぜ良い商品でも儲からないのか?薄利多売から高付加価値モデルへ転換する経営戦略

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

「ここ数年、うちの製品のコンクール受賞がネットで評判になって、常に供給不足の状態なんですが、生産量に限界があって収益性は低いままなんですよ」——地方で酒類メーカーを経営する50代の社長(売上6億・従業員20名)の言葉です。販売の大半は問屋経由の量販店ルートで、棚を確保する代わりに価格の主導権は先方にある。品質への評価は高いのに、量販店では自社が期待するような高いブランドイメージでは扱ってもらえない。値決めには関与できず、価格競争にさらされる。商品力のある地方メーカーほど陥りやすい構造です。最初に申し上げたいのは、利益は売上ではなく「構造」で決まるということです。

今日は、良い商品を作っているのに儲からない会社に共通する収益構造の問題を解きほぐし、ブランドポートフォリオと販路戦略を一体で設計し直して、薄利多売から高付加価値モデルへ転換するための経営戦略を、酒類メーカーの支援事例と、新規販路開拓に伴う契約リスクへの法的視点とあわせてお伝えします。

この記事の担当
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル|中期経営計画の策定を通じて、ブランドポートフォリオと販路の再設計から実行まで伴走。

石川 悠

石川 悠
弁護士(予防法務)|新販路開拓で結ぶ継続的取引契約のリスクヘッジと、既存取引の見直しを法務面から支援。

「良い商品なのに儲からない」は、商品力ではなく構造の問題

品質を上げれば利益がついてくる——これは、多くの製造業の経営者が信じている前提です。ところが現実には、品質が向上しても利益が伸びない会社が数多くあります。原因は商品ではなく、その商品を市場に届ける構造のほうにあります。

薄利多売の構造にいる会社は、たいてい次の3つが同時に起きています。販売の大半を特定の間接チャネルに依存している。商品ごとの役割が決まっておらず、高価格帯と低価格帯が混在したまま同じブランドで扱われている。そして、価格を決めているのが自社ではない。

この状態で品質を上げると、どうなるか。原価が上がるだけで、価格に反映できません。良くすればするほど利益が薄くなるという逆転が起きます。値上げを申し出るにも根拠となる原価データが必要ですが、直近の調査でも価格転嫁率は54.2%にとどまっており、コスト上昇分をすべて価格に乗せられている会社は多くありません。

54.2%

価格転嫁率(2026年3月フォローアップ調査)

4.52%

食品・飲料・酒類のEC化率(2024年・全体の物販EC化率は9.78%)

3.1兆円

食品・飲料・酒類のBtoC-EC市場規模(2024年・前年比6.36%増)

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

支援先の社長さんに「御社の一番の強みは何ですか」と伺うと、ほぼ全員が「商品の品質」と答えられます。それ自体は素晴らしいことです。ただ、続けて「その品質の高さは、店頭でお客様にどう伝わっていますか」と伺うと、多くの方が言葉に詰まります。品質は工場の中で作られますが、価値はお客様の頭の中で作られる——この2つを繋ぐ設計が抜けているんです。

経営とは、商品を作ることではなく、価値を正しく届ける仕組みを作ることです。品質に自信がある会社ほど、この視点への切り替えで収益が大きく変わります。

間接販売で失っているのは、価格決定権と顧客情報

問屋や量販店経由の販売は、決して悪ではありません。まとまった数量が動き、営業の負担も小さい。立ち上げ期には合理的な選択です。ただし、その構造には代償が伴います。

ひとつは 価格決定権 です。棚に並ぶ以上、同じ売場の競合と横並びで比較されます。差別化の余地は限られ、価格は相手の論理で決まっていきます。もうひとつは 顧客情報 です。誰が、なぜ、どんな場面で自社の商品を買っているのかが分からない。これは、次の商品開発とブランド構築の材料を失っているのと同じことです。

この2つを失った状態では、いくら良い商品を作っても「価値を正しく伝える」手段がありません。伝わっていない価値には、対価は支払われないのです。

間接販売に依存し続けた会社に起きること
  • ❌ 価格が相手の論理で決まり、コスト上昇分を転嫁できない
  • ❌ 顧客が見えないため、商品開発が勘に頼る
  • ❌ 低価格帯の印象が定着し、高価格帯の商品も売れなくなる
  • ❌ 数量を追うために生産能力を限界まで使い、利益率の高い仕事を受けられない
  • ❌ 特定チャネルへの依存度が上がり、取引条件の変更に抵抗できなくなる

ブランドポートフォリオを設計する——商品ごとの役割を決める

転換の第一歩は、商品ラインナップを ポートフォリオとして設計し直す ことです。ポイントは、商品ごとに役割を割り当てること。すべての商品に同じ役割を持たせようとすると、ブランドの輪郭がぼやけます。

商品に割り当てる3つの役割

  • フラッグシップ:ブランドの水準を示す商品
    利益率も価格帯も最上位。数量は追いません。この商品の存在が、ブランド全体の評価を規定します。技術と思想を凝縮させる位置づけです。
  • 主力:収益の柱となる商品
    フラッグシップの世界観を引き継ぎながら、現実的な価格で届ける中核商品。ここの利益率が全体の収益性を決めます。
  • 入口:新しい顧客と出会うための商品
    手に取りやすい価格帯。ただし 安いだけの商品にしない ことが肝心です。パッケージやネーミングを含めて、上位商品へつながる設計にします。

ここで難しいのが、既存の低価格帯商品の扱いです。長年、量販店向けに出してきた商品を切り捨てるのは現実的ではありません。私が支援先で採るのは、切り捨てるのではなく再設計するという方法です。中身が良いのであれば、パッケージ・ネーミング・提供する場面を見直すだけで、まったく違う価値として受け取られることがあります。

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

ポートフォリオ設計で必ずお伝えしているのは、「これは単発の値上げ施策ではなく、中期経営計画の背骨だ」ということです。商品の役割を変えれば、販売計画も生産計画も変わります。単年の帳尻合わせでやると現場が混乱するだけなので、3年程度の時間軸で「どの商品構成・どのチャネル構成に移行するか」を計画に落とし込みます。

もうひとつ。長年主力だった商品を「エントリー」と位置づけ直すことに、現場からは抵抗が出るのが普通です。だからこそ経営者自身が「なぜこの構造に変えるのか」を語れる状態を作ることが、戦略そのものと同じくらい重要なんです。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

高付加価値化に取り組む際、表示の面で一点だけ注意していただきたいのが景品表示法です。景品表示法は、実際よりも著しく優れていると誤認させる「優良誤認表示」や、価格・取引条件が実際より著しく有利だと誤認させる「有利誤認表示」を禁止しています。

ブランドの見せ方を強化する過程では、受賞歴・産地・製法・希少性といった訴求が増えます。その一つひとつに根拠資料を用意できるかを、パッケージやサイトの制作段階で確認してください。判断に迷う表現は、公開前に弁護士へご相談いただくのが安全です。

ダイレクトチャネルは「売る場所」ではなく「価値を伝える場所」

ブランドの役割が決まったら、それを正しく伝えられる売り場が必要になります。ここでダイレクトチャネル——自社EC、直営店、産地直送、法人向けの直接取引——の出番です。

誤解されやすいのですが、ダイレクトチャネルの価値は「中間マージンが乗らないこと」だけではありません。むしろ大きいのは、作り手の思想を、言葉と体験で伝えられることです。原材料の背景、製法のこだわり、飲み方・食べ方の提案。棚に並べるだけでは伝わらない情報を届けられる場所であり、商品価値そのものを伝える仕事ともいえます。

市場環境も追い風です。2024年の物販系BtoC-EC市場は15兆2,194億円、EC化率は9.78%まで上昇しました。一方、食品・飲料・酒類のEC化率は4.52%と全体平均を下回っており、市場規模は3兆1,163億円で前年比6.36%増。伸びている一方で、まだEC化が進んでいない領域だということです。後発でも入り込む余地は十分にあります。

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

よくある失敗は、既存の商品をそのままECに並べてしまうことです。量販店の棚を前提に作られたパッケージと価格を、そのままオンラインに持ち込んでも、価値は伝わりません。それどころか、量販店での価格と比較されて自社ECが選ばれない、ということまで起きます。

ダイレクトチャネルを始めるなら、そこで何を伝えるのか、どの商品を主役にするのかを先に決める。売り場を作るのは、その後です。順序が逆になると、コストだけかかって何も変わりません。

供給に限りがあるからこそ、高付加価値化が効く

もうひとつ、高付加価値化を後押しする現実的な理由があります。多くの中小メーカーは、そもそも生産量を大きく増やせないということです。

原材料の調達量に制約がある。設備の能力に上限がある。人手も限られている。この状態で「売上を伸ばす」を数量の拡大で実現しようとすると、必ず壁に突き当たります。逆に言えば、数量を増やせない会社にとって、1本あたりの利益を上げること以外に成長の道はないということです。

ここが腹落ちすると、経営判断が変わります。数量が出るが利益の薄い取引を減らし、その分の生産能力を高付加価値商品に振り向ける。売上は一時的に落ちるかもしれませんが、利益は増える。売上を追う経営から、構造を設計する経営への転換です。

事例:酒類メーカーが同じ生産量で収益構造を変えるまで

支援先の酒類メーカーの事例です。フラッグシップとなる高品質シリーズはブランド評価を確立しつつありました。しかし、それ以外の商品はスーパー向けが中心で低価格帯のイメージが強く、全体として収益性が伸びにくい構造になっていました。

販売の多くを問屋経由の量販店に依存していたため、商品価値に見合った価格で販売できていない状態でもありました。さらに、原料の調達量と生産能力に制約があり、本数を増やして売上を伸ばすモデルには限界がありました。

取り組んだのは、中期経営計画の策定を通じた ブランドポートフォリオの再構築 です。商品ごとの役割とコンセプトを明確にし、従来スーパー向けに販売していた商品についても、パッケージやネーミングを見直して高付加価値化に向けた再設計を行いました。

あわせて、量販店チャネルからダイレクトチャネルへ、ブランド価値を適切に伝えられる販売構造へ転換。高付加価値商品を中心に販売するモデルへシフトしました。結果として、同じ生産量でも売上・利益を高める構造へ転換し、薄利多売から高付加価値型のビジネスモデルを確立しています。

この事例で実施した4つのこと
  • ✅ 中期経営計画の策定を通じたブランドポートフォリオの再構築
  • ✅ 商品ごとの役割とコンセプトの明確化
  • ✅ 既存商品のパッケージ・ネーミングの見直しによる高付加価値化
  • ✅ ダイレクトチャネルの拡大と、高付加価値商品中心の販売モデルへの転換

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

この事例で強調したいのは、商品・チャネル・ブランドを「一体で」設計し直したことです。パッケージだけ刷新しても、売り場が特売の棚のままでは価値は伝わりません。ECだけ開設しても、商品の役割設計がなければ既存商品を並べただけのサイトになります。単品の施策では、収益構造は変わらないんです。

もうひとつは、生産能力の制約を「弱み」ではなく戦略の前提として扱ったことです。増産できないという事実が、「数を追わず、一本あたりの価値を高める」という腹の決まった意思決定につながりました。制約は、正しく向き合えば戦略を研ぎ澄ます味方になります。

新しい販路を開くときの契約リスク

チャネルを変える動きには、法務面の論点がついてきます。ここからは石川先生にお願いします。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

新しい販路を開拓する際に必ず出てくるのが、継続的取引に関する契約です。新しい卸先・小売店・ECモールとの取引では、長年お付き合いのある取引先とは違った視点でのリスクヘッジが必要になる場合があります。たとえば、支払条件と債権回収の担保、返品・値引き・販促費負担の条件、契約解消時の予告期間や在庫の取り扱い、安売りサイトへの横流しを防ぐ転売防止条項などです。

長年の取引先とは「信頼関係」が実質的な担保になっていますが、新規販路にはそれがありません。取引を始める前の契約設計こそが確かな防波堤になります。契約書の整備は販路開拓とセットで、弁護士に相談しながら進めていただくことをお勧めします。

もうひとつ、既存チャネルを縮小していく局面にも注意が必要です。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

長期間続いてきた取引を一方的に打ち切る場合、相手方が取引の継続を前提に投資や体制を整えていたようなケースでは、裁判で争いになることがあります。

実務としては、契約書に解約の手続きと予告期間を明記しておくこと。そして、方針転換を伝える際は段階的に、記録を残しながら進めることです。「問題が起きてからでは遅い」というのは、取引の解消にもそのまま当てはまります。

販路を変えるときに確認しておく契約項目
  • ✅ 契約期間・更新の条件と、解約時の予告期間
  • ✅ 独占的な取扱いの有無(他チャネル展開が制限されていないか)
  • ✅ 最低発注数量・返品条件・在庫の取り扱い
  • ✅ 支払条件(サイト・支払方法)と価格改定の手続き
  • ✅ 商標・ブランド表示の使用範囲
  • ✅ 広告表示が景品表示法・食品表示のルールに沿っているか

まず今月、着手してほしい3つのこと

構造転換は数年がかりのテーマですが、最初の分析は今月中にできます。

  • チャネル別・商品別の粗利を一覧にする
    売上ではなく粗利で並べてください。数量が出ているのに利益に貢献していないチャネルと商品が、はっきり見えてきます。ここがすべての起点です。
  • 商品ごとに役割を書き出す
    フラッグシップ・主力・入口。いまのラインナップを3つに仕分けてみると、役割が重複している商品と、どこにも当てはまらない商品が出てきます。それが再設計の対象です。
  • 主要取引先との契約書の有無と中身を確認する
    契約書がない、あるいは10年以上前のまま、という取引先はありませんか。販路を動かす前に、解約条項と独占条項だけは必ず確認しておいてください。
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

薄利多売の構造は、放っておいて自然に変わることはありません。しかし、構造は設計し直せます。商品力という一番大事な資産をすでにお持ちなのですから、あとは「価値を正しく届ける仕組み」を作るだけです。同じ商品でも、構造が変われば収益は大きく変わる——これは私が支援の現場で何度も見てきた事実です。

システムを作る前の戦略構築が私の本業です。本業だけで発展していくことが難しい時代の次の一手を、中期経営計画という形に落とし込み、実行まで伴走します。御社の商品の価値が、正しく利益に変わる構造を一緒に作りましょう。

この記事の著者
森下 剛靖
DX・戦略コンサル
森下 剛靖

DX・ITコンサル、ビジネスコンサル、人材育成を三本柱に活動。大手企業との実績多数。原価計算のシステム化や事業再生、生成AIを活用した新規事業立ち上げ支援など、戦略策定から実行まで伴走する。大手コンサルの知見を活かし、システム導入前に「勝てる戦略」を構築。中期経営計画の策定を通じたブランドポートフォリオの再構築、チャネル別粗利構造の可視化、ダイレクトチャネルへの転換設計など、収益構造そのものを組み替える支援を得意とする。本業だけで発展していくことが難しい時代の次の一手を、経営者研修やリーダー育成を通じて共に作り上げる。

エイドリームコンサルティング株式会社
中期経営計画・ブランド戦略
収益構造改革・事業再生

石川 悠
弁護士(予防法務)
石川 悠

大分県出身、中央大学法学部法律学科卒、九州大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。中小企業顧問業務・破産管財人業務を中心に、予防法務・コンプラ整備・債権回収など30業種以上の幅広い顧問先をサポート。中小企業の存続と発展を法務面からサポートするという信念のもと、新規販路開拓に伴う継続的取引契約の設計、独占条項・解約条項の整備、既存取引を見直す局面でのリスクヘッジを法務面から支援する。経営者が本業に専念できる環境づくりを、法務面から実装する。

弁護士登録 2017年
中央大学法学部卒
九州大学法科大学院卒
継続的取引契約・予防法務

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参考データ・出典

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