なぜ人を増やしても現場は回らないのか?人手不足を解消した「業務設計とDX構想」の進め方
業務改革・生産性

なぜ人を増やしても現場は回らないのか?人手不足を解消した「業務設計とDX構想」の進め方

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

「従業員に休みを取らせてあげたいが、人手不足で難しい。逆に休みを取れないことが不満で辞める従業員も出て、残ったメンバーはさらに苦しくなってるんです」——九州でホテルを経営する50代の社長(売上10億・従業員65名)から、DX化で解決できないかと相談を受けました。コロナ時期に採用を抑えていたが、アフターコロナのインバウンド需要等で稼働率が急上昇。従業員は休暇すら取れず、疲弊した人が辞め、残った人がさらに忙しくなる。サービス業の現場でご相談をいただく内容です。最初にお伝えしたい結論はひとつ。現状業務をデジタル化するだけでは抜本解決にはならない、まずは業務を最適化すること——ITツール選定というシンプルな問題ではなく、業務設計という経営の課題なんです。

今日は、採用を増やしても現場が回らない構造的な理由を解きほぐした上で、サービス水準と業務効率のバランス設計 → 業務の削減・標準化・セルフ化 → DX構想という人手不足解消の正しい順序を、ホテル業の支援事例とともにお伝えします。

この記事の担当
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル|大手コンサルの知見を活かし、システム導入前に「勝てる戦略」を構築。業務設計から実行計画まで伴走。

人を増やしても現場が回らない「悪循環」の正体

人手不足のご相談で、最初に整理するのは会社の中で起きている循環です。だいたい、次のような順序で回っています。需要が戻って業務量が増える。現場の負荷が上がり、休暇が取りづらくなる。疲弊した人から辞めていく。残ったメンバーの負荷がさらに上がる。採用を強化するが、教育する余裕がないため定着しない。そしてまた辞めていく。

この循環の怖いところは、一周するたびに現場の状態が悪くなる点です。採用は循環の速度を少し落とすだけで、向きは変えられません。向きを変えるには、業務量そのものに手を入れるしかない。ここに手をつけないまま採用と外注を積み増していくと、人件費と外注費だけが増えて収益性が落ち、サービス品質まで下がっていきます。

数字の面でも、人手不足は「採用で耐える」段階を超えつつあります。帝国データバンクの調査では、2025年度の人手不足倒産は441件で、前年度の約1.3倍。年度ベースで初めて400件を超え、3年連続で過去最多を更新しました。うち従業員の退職が引き金となった「従業員退職型」は118件で、これも過去最多です。採用できないことより、いまいる人が辞めていくことのほうが、会社を直撃しているという現実がここに表れています。

441件

2025年度の人手不足倒産(3年連続で過去最多・帝国データバンク)

50.6%

正社員が不足していると回答した企業(2026年4月時点)

28位

日本の時間当たり労働生産性(OECD38カ国中・2024年)

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

経営者の目線からは、「人が足りない」と「業務が多すぎる」は、まったく同じ景色に見えるんです。現場は忙しそうで、シフトは埋まらず、残業が増えている——この光景だけを見れば、誰でも「人を増やそう」と考えます。

でも、両者は処方箋が正反対です。後者に採用強化で対応すると、人件費が増えた分だけ収益性が悪化し、業務の膨張はそのまま残る。私は支援に入るとき、まず「どちらの病気か」を業務の棚卸しで診断します。体感では、ご相談の大半は後者、あるいは複合です。

人手不足ではなく「業務構造」の問題として捉え直す

ここで視点を切り替えます。「人が何人足りないか」ではなく、「いまの業務量は、この人数で回る設計になっているか」という問いに置き換えるのです。同じ現象を見ていても、この問いに変えた瞬間、打ち手の数が一気に増えます。

業務構造の問題として見ると、負荷の原因はだいたい次のどこかにあります。誰も必要としていないのに続いている作業。人によってやり方が違うため、その人でないと処理できない作業。お客様に任せてもよいのに、こちらで抱え続けている作業。そして、紙とExcelと口頭伝達の間で何度も同じ情報を転記している作業です。

これらはいずれも「人を増やす」では解決しません。むしろ人が増えるほど、伝達と教育のコストが積み上がって悪化することさえあります。逆に言えば、ここに手を入れれば、採用しなくても現場は軽くなるということです。

業務構造に手をつけないまま人を足した会社に起きること
  • ❌ 教育の余裕がないため新人が定着せず、採用費だけが繰り返し発生する
  • ❌ 属人化した作業が温存され、特定のベテランが休めない状態が固定化する
  • ❌ 外注を増やして一時的にしのぐが、外注費が固定費化して収益性が悪化する
  • ❌ 現場が疲弊した状態でサービス品質が落ち、客単価やリピート率に跳ね返る
  • ❌ 「人手不足だから仕方ない」が社内の共通認識になり、改善提案が出なくなる

サービス水準を決める——「どこまでやるか・何をやらないか」

業務構造に手を入れるとき、最初に必要なのは効率化の技術ではありません。自社のサービス水準を、経営が決め直すことです。ここが曖昧なままだと、現場は「やめてよい仕事」を判断できません。

創業から長く続く会社ほど、サービスは足し算で積み上がっています。お客様に喜んでいただこうと始めたことが、いつのまにか標準になり、対価をいただいていないまま義務として残る。ひとつひとつは小さくても、積み上がると1人分、2人分の仕事になります。私が支援先で必ず確認するのは、提供している価値と、そこにかかっている業務負荷と、いただいている価格が釣り合っているかという点です。

釣り合っていないと分かったときの選択肢は3つしかありません。価格を上げるか、サービスをやめるか、同じ価値をより少ない手間で提供する形に作り替えるか。この判断は現場ではできません。経営が決めて、言葉にして、現場に渡す必要があります。

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

「サービスを削ったらお客様が離れませんか」——この質問を必ずいただきます。私の答えは、「全部やる」は戦略ではない、です。お客様が価格の理由として認識しているコアなサービスと、提供側の思い込みで続けている周辺業務は、分けて考える必要があります。

実際に仕分けると、「お客様がほとんど利用していないのに毎日準備している」業務が出てくることがほとんどです。削るのは価値につながっていない業務であって、お客様への価値ではない。むしろコアなサービスに人と時間を寄せられるので、体感的なサービス品質は上がることのほうが多いんです。

業務の棚卸しから再設計へ:削減・標準化・セルフ化

サービス水準の方針が決まったら、業務の棚卸しに入ります。ここは 必ず現場メンバー主体で進めます。経営やコンサルが机上で作った一覧は、現場の実態とずれるうえ、当事者意識が生まれません。

棚卸しから実行までの4ステップ

  • ステップ1:業務を書き出し、時間と頻度を添える
    部署ごとに、日次・週次・月次の業務をすべて書き出します。所要時間と発生頻度、担当できる人数を添えるのが要点です。「この作業は月20時間かかっていて、できるのは1人だけ」という形まで落ちると、議論の質が変わります。
  • ステップ2:削減——やめる、減らす、まとめる
    目的が説明できない業務、二重に行っている確認、誰も見ていない資料。ここを落とすだけで負荷は目に見えて下がります。判断の拠りどころは、前段で決めたサービス水準です。
  • ステップ3:標準化——誰がやっても同じ結果になる形にする
    残す業務は手順を揃え、判断基準を言葉にします。属人化の解消は、ベテランが休めるようになるという意味で、定着率にも直結します。標準化まで進むと、次のシステム化が一気に楽になります。
  • ステップ4:セルフ化——お客様側・従業員側に委ねられる部分を移す
    予約や事前登録、簡単な問い合わせ対応など、お客様にとってもそのほうが早い業務は少なくありません。社内向けにも、申請や確認をセルフで完結させられる領域があります。
棚卸しの精度を上げる問いかけ
  • ✅ この作業をやめたら、誰がどう困るか(説明できないなら候補)
  • ✅ この作業は、対価をいただいているサービスの一部か
  • ✅ できる人は何人いるか(1人なら属人化リスク)
  • ✅ 同じ情報を、何回・どこに転記しているか
  • ✅ お客様ご自身にやっていただいたほうが早くないか

DXは手段。業務を変えずに入れても効果は出ない

ここまで来て、ようやくDXの出番です。順序を逆にしてはいけません。業務を変えずにシステムを入れても効果は出ませんが、業務を変えたうえで入れると、DXは大きな効果を発揮します。私が繰り返しお伝えしているのは、この一点に尽きます。

業務設計を終えた状態でシステム選定に入ると、判断がまるで違ってきます。何を自動化したいのかが明確なので、機能一覧を眺めて迷うことがない。標準化が済んでいるので、パッケージの標準機能に乗せやすく、カスタマイズが膨らまない。現場が自分たちで決めた設計なので、稼働後に使われないということも起きにくい。

先ほどの帝国データバンクの調査でも、正社員の人手不足感が5割を超えて高止まりする一方、旅館・ホテルの非正社員不足は38.5%まで下がり、3年連続で改善しています。この背景として、DXやスポットワークの普及による生産性向上が挙げられています。業界全体が人手不足の中でも、業務を作り替えた会社から順に楽になっているということです。

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

よくある失敗は、「DX=ツール導入」だと思ってしまうことです。展示会で見た良さそうな製品を入れる、補助金が出るから入れる。この順番だと、必ずと言っていいほど「入れたけど使っていない」に着地します。

DX構想というのは、システムの話の前に 「3年後、この会社の業務はどういう形で回っているか」を絵にする作業です。その絵があるからこそ、どのシステムをどの順番で入れるか、どこは人が担い続けるかが決まります。導入前に整理すべきは、製品比較表ではなく、この絵のほうです。

事例:悪循環に陥った宿泊業を、シフト改革と外注費削減までつなげる

支援先のホテルの事例をご紹介します。需要の回復に対して人員採用が追いつかないままだったため、業務負荷が急激に増加していました。従業員が休暇を取得できない状態が続き、離職が発生し、さらに現場の負担が増える——冒頭で挙げた悪循環そのものの状態です。

内部を見ていくと、もうひとつの問題が浮かびました。創業時から「おもてなし志向」が非常に強く、提供している価値と業務負荷のバランスが整理されないまま、価格に見合わないサービスを提供し続けていたのです。現場は誇りを持ってやっているので、誰も止められない。ここが負荷の根にありました。

進め方はシンプルです。まず現場メンバー主体で業務を棚卸しし、課題を抽出しました。そのうえでプロジェクトチームのディスカッションにて、自社のサービス水準を再定義し、業務の削減・標準化・セルフ化の方針も経営陣の承認を得ました。ここまで固めてからDX構想を策定し、システム導入を含む実行計画に落としています。

結果として、フロント業務の効率化とセルフサービス化により必要人員を最適化でき、シフト改革に踏み切れました。さらに、そこで生まれた余剰人員を清掃業務へ振り向けることで 外注費の削減 にもつながっています。何より大きかったのは、従業員が休暇を取得できるようになったことです。従業員満足度の向上とオペレーション改善が、同時に実現しました。

この事例で実施した4つのこと
  • ✅ 現場メンバー主体の業務棚卸しと課題抽出
  • ✅ サービス水準の再定義と社内コンセンサス獲得(何をやり、何をやらないか)
  • ✅ 業務の削減・標準化・セルフ化の方針決定
  • ✅ DX構想の策定と、システム導入を含む実行計画への落とし込み
森下 剛靖

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DX・戦略コンサル

この支援で私が最も重視したのは、棚卸しを現場メンバー主体で行ったことです。外部コンサルや経営陣が作った改善案は、どんなに正しくても現場にとって「やらされる改革」になります。逆に、自分たちで業務を洗い出し、課題を言語化した現場は、その後の変化を「自分たちが決めたこと」として受け止めてくれる。

もうひとつ印象的だったのは、業務時間はサービス水準に比例するという話をした時の現場の表情です。「あれも、これもとサービスしてしまうから忙しくなってるんですね」と言われました。線引きのない献身は、いつか必ず燃え尽きます。線を引くことは手抜きではなく、良いサービスを持続可能にするための経営行為なんです。

外注で穴埋めする前に確認しておきたいこと

人手不足の対応として、業務委託や外注を活用する会社は多いと思います。有効な手段ですが、業務設計を整えないまま外に出すと、社内に残るはずのノウハウまで一緒に出ていきます。まずは棚卸しを済ませ、「切り出せる形」にしてから出すのが順序です。

もうひとつ、契約面の注意点があります。業務委託として契約していても、実態として指揮命令を行っていれば、労働者派遣法や労働基準法との関係で問題になり得ます。中小企業の現場では、繁忙期に「その場で細かく指示を出してしまう」ことから、実態が委託から離れていくケースが起こりがちです。

業務委託を使う前に、弁護士に確認しておきたい点
  • ⚠️ 業務委託契約書が整備されているか(業務範囲・成果物・報酬・責任の所在)
  • ⚠️ 実態として指揮命令を行っていないか(委託ではなく雇用と評価されるリスク)
  • ⚠️ 再委託・秘密保持・個人情報の取り扱いが定められているか
  • ⚠️ 契約期間と解除条件が、現場の繁閑に合っているか

外注で人手不足の解消を図る場合は、事前に弁護士へご相談いただくことをおすすめしています。契約書の整備と運用実態の確認を先に済ませておけば、後から生じるトラブルの多くは避けられます。

まず今月、着手してほしい3つのこと

全部を一度に変える必要はありません。順序さえ守れば、最初の一歩は今月中に踏み出せます。

  • いちばん負荷の高い部署だけ、業務を書き出す
    全社一斉にやろうとすると必ず止まります。1部署に絞り、日次・週次・月次の業務を、所要時間・頻度・担当できる人数とセットで書き出してください。それだけで削減候補が見えてきます。
  • 「対価をいただいていないサービス」を3つ挙げる
    経営会議の議題にしてください。やめる・有料にする・希望者のみにする。この3択で仕分けるだけで、現場が判断できる基準が生まれます。
  • 3年後の現場の姿を、1枚の絵にする
    どの業務を人が担い、どこをシステムに任せるのか。粗くて構いません。この絵が先にあるかどうかで、その後のシステム選定の精度がまったく変わります。
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

人手不足の時代に問われているのは、採用力よりも「少ない人数でも回る仕組みを作る力」だと私は考えています。人を増やすことは手段のひとつにすぎません。業務を設計し直し、人が生み出す価値を最大化する仕組みを作ること——それこそが経営者にしかできない仕事です。

システムを作る前の戦略構築が私の仕事の中核です。業務のあり方を見直し、その実現手段としてDXを構想する。この順序を守れば、DXは人手不足に対する強力な武器になります。御社の現場が「休める職場」に変わる道筋を、一緒に設計しましょう。

この記事の著者
森下 剛靖
DX・戦略コンサル
森下 剛靖

DX・ITコンサル、ビジネスコンサル、人材育成を三本柱に活動。大手企業との実績多数。原価計算のシステム化や事業再生、生成AIを活用した新規事業立ち上げ支援など、戦略策定から実行まで伴走する。大手コンサルの知見を活かし、システム導入前に「勝てる戦略」を構築。原価管理から生成AI活用まで柔軟に提供。システムを作る前の戦略構築がメインで、業務の棚卸しとサービス水準の再定義から、削減・標準化・セルフ化を経てDX構想へつなぐ一連の設計を得意とする。本業だけで発展していくことが難しい時代の次の一手を、経営者研修やリーダー育成を通じて共に作り上げる。

エイドリームコンサルティング株式会社
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参考データ・出典

本記事で引用した主要データの一次ソースです。最新の数字は各リンク先でご確認いただけます。