高校生採用で見落とせない『保護者』の存在。学校・家庭から信頼される企業の採用設計とは
中小企業 採用戦略

高校生採用で見落とせない『保護者』の存在。学校・家庭から信頼される企業の採用設計とは

塚田 亜弓

塚田 亜弓
人事戦略・採用定着

「高校の先生に求人票を持って行っても、なかなか生徒を紹介してもらえない」「地元の優秀な子は、結局大手や県外の企業に流れてしまう」——地方の製造業を支援するなかで、私たちはこうした悩みに繰り返し出会ってきました。高卒採用では、給与水準や会社の規模だけではなく、「誰に向けて採用活動をしているか」も重要です。高校生本人を中心に、保護者・学校まで視野に入れて採用を設計する。これが欠かせない視点です。

厚生労働省の取りまとめによると、高校新卒者の求人倍率は4.12倍(令和8年3月末現在)。約49万9千人分の求人に対し、就職希望者は約12万1千人です。企業が高校生を「選ぶ」だけではなく、高校生からも「選ばれる」市場になっています。

今回は、高校生本人・保護者・学校から信頼され、「この会社なら安心して送り出せる」と思ってもらえる企業になるための採用設計を、年少者雇用の法的な体制づくりも含めてお伝えします。

この記事の担当
塚田 亜弓

塚田 亜弓
人事戦略・採用定着|毎年全国約300社の高校生採用支援に携わり、生徒・学校・保護者・企業の信頼関係づくりをサポート。
石川 悠

石川 悠
弁護士(予防法務)|年少者雇用の法規制と安全配慮の体制整備を、法務面から支援。

高卒採用は「本人」だけを見ていてはいけない

大卒採用との大きな違いの一つが、学校の存在です。大学生の採用では、学生自身が企業を探し、応募するのが一般的です。一方、高校生の就職活動は、学校を通じて行われるのが基本で、多くの場合、学校と相談しながら応募先を検討していきます。

つまり、高卒採用では、高校生本人だけでなく、学校との信頼関係も重要です。先生にとっても、「この会社なら安心して生徒を送り出せるか」は大切な視点の一つです。そして、もう一つ忘れてはいけないのが保護者。初めて社会に出るわが子の就職先に、不安や心配を感じる保護者も少なくありません。
だからこそ、求人票の条件を整えるだけでは十分ではありません。高校生採用は、求人票だけでは決まらないのです。高校生本人に選ばれることはもちろん、学校や保護者にも「安心して送り出せる」と信頼してもらえる採用活動が大切です。

塚田 亜弓

塚田 亜弓
採用サポート

私たちは毎年全国約300社の高校生採用を支援していますが、「本人は乗り気だったのに、保護者の不安や反対があり、辞退につながった」というご相談をいただくことがあります。会社名を検索しても情報がほとんど出てこない、職場の様子がわからない——そんなことが不安のきっかけになるケースもあります。

だからこそ、高校生本人だけでなく、保護者や学校にも届く情報発信が大切です。知名度では大手企業に及ばなくても、働く人や職場の様子、入社後のサポートを丁寧に伝えることで、地元企業だからこそつくれる「顔が見える安心感」があります。

求人倍率4.12倍——「選ばれる」採用への転換

数字を見ておきましょう。厚生労働省の取りまとめによると、令和7年度(令和8年3月卒)の高校新卒者の求人倍率は4.12倍(令和8年3月末現在)。求人数約49万9千人に対して、求職者は約12万1千人、就職内定率は98.9%に達しています。

つまり、就職希望者1人あたり4件を超える求人がある計算です。企業側も「選ぶ」だけではなく、高校生から選ばれることを意識した採用が求められています。

この市場では、求人票を出して待っているだけでは、数多くの求人に埋もれてしまう可能性があります。だからこそ、条件だけでなく、「この会社なら安心して働けそう」と信頼してもらえる情報発信が大切です。地域に根ざしている、職場や働く人の顔が見える、入社後のサポートがわかる。こうした情報は、地元企業だからこそ伝えられる強みにもなります。

4.12倍

高校新卒者の求人倍率(令和7年度・令和8年3月末現在)
98.9%

高校新卒者の就職内定率(同・希望者はほぼ全員が決まる)
37.9%

高卒就職者の3年以内離職率(令和4年3月卒業者)

学校と保護者は、会社の何を見ているのか

では、学校や保護者に安心してもらうために、企業は何を伝える必要があるのでしょうか。私たちが支援先で整理しているのは、次の3つの観点です。

信頼につながる3つの観点

  • 安全:安心して働ける環境か
    特に製造業・建設業では、作業環境や安全教育の体制、年少者への配慮は大切なポイントです。どのような安全対策を行っているのか、具体的に伝えられる状態にしておくことが重要です。
  • 育成:入社後、どう育ててもらえるか
    高校を卒業して初めて働く若者にとって、教育体制は大きな安心材料になります。誰が、どのくらいの期間、何を教えるのか。入社後の育成を具体的に伝えられるようにしておきましょう。
  • 将来:この先、どんな成長ができるか
    3年後、5年後にどんな仕事を任され、どのように成長していけるのか。キャリアの見通しや会社の将来性を伝えることも、本人や保護者の安心につながります。

この3つは、すでに社内で取り組んでいるのに、十分に伝えられていないケースも少なくありません。安全教育をしている。先輩が丁寧に教えている。成長に応じて任せる仕事も増えていく。大切なのは、それを「伝わる形」にすることです。日々の取り組みをきちんと言葉や情報にして届けることが、学校や保護者からの信頼につながっていきます。

塚田 亜弓

塚田 亜弓
採用サポート

支援先の地方の製造業で、こんなことがありました。何年も採用ゼロが続いていましたが、就職担当の先生を工場にお招きし、安全対策や若手の育成計画を直接見ていただいたことで、会社への理解が深まり、その年に一人目の採用が決まりました。その後も、現場で育っていく様子を学校に報告し続けたところ、翌年からは先生から生徒に紹介していただけるようになりました。

先生は「生徒を売り込む場所」ではなく「安心して生徒を託せる会社」を探しています。だからこそ、「採用したい」と伝えることだけではなく、「安心して生徒を送り出せる会社だ」と理解してもらうこと。その根拠を誠実に伝えることが、学校との信頼関係を築く第一歩になります。

安全の話に関連して、法的な備えを確認しておきます。高卒採用では、入社時点で18歳未満の方を迎えることがあります。ここは石川先生にお願いします。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

まず押さえていただきたいのは、労働基準法が満18歳未満の労働者を「年少者」として特別に保護していることです(労基法第6章)。高校を卒業して入社する新入社員には、入社時点でまだ18歳の誕生日を迎えていない方が含まれます。その方には、誕生日が来るまで年少者の規定がそのまま適用されるんです。

具体的には、深夜業(午後10時から午前5時)が原則禁止(労基法61条)。時間外労働・休日労働は、36協定を締結していても原則させられません(労基法60条)。ここは誤解が非常に多いところで、「協定があるから大丈夫」は年少者には通用しない。交替勤務や繁忙期の残業を前提にしたシフト設計のままだと、知らないうちに法令違反になってしまう可能性があります。

そしてもうひとつ、書類の備えについても確認が必要です。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

年少者を雇用する場合、年齢を証明する書面を事業場に備え付けておくことが求められます。住民票記載事項の証明書などがこれにあたります。細かい話に思えるかもしれませんが、労働基準監督署の調査でも確認される項目です。

加えて、シフトの組み方が年少者に対応しているか、安全教育の記録が残っているかも確認しておいてください。こうした体制が整っていること自体が、学校や保護者に対する何よりの説明材料になります。「問題が起きてからでは遅い」ですし、備えていることを見せられれば、それは信頼に変わります。

高卒採用の前に確認しておく法務チェック
  • ✅ 18歳未満の深夜業(22時〜5時)が発生しないシフトになっているか
  • ✅ 時間外・休日労働をさせない運用が現場に周知されているか
  • ✅ 危険有害業務の就業制限に該当する作業がないか
  • ✅ 年齢を証明する書面を事業場に備え付けているか
  • ✅ 安全衛生教育の実施と記録が残っているか
  • ✅ 労働条件明示(就業場所・業務の変更の範囲を含む)が書面でできているか

「紹介したい」と思われる会社になるために

信頼の材料が整ったら、次はそれをきちんと届ける番です。ここからは、私たちが高卒採用の支援現場でも大切にしている方法をご紹介します。

三者に届く4つの打ち手

  • 職場見学を「何を伝えるか」から設計する
    ただ現場を歩くだけでは、会社の魅力は十分に伝わりません。誰が案内し、何を見せるかを決め、先輩社員が自分の言葉で話す時間もつくる。働く人や職場の雰囲気まで伝えることが大切です。
  • キャリアパスと育成計画を1枚にまとめる
    入社1年目に何を学び、3年目にどんな仕事を任されるのか。資格取得支援なども含めて示すことで、本人や保護者が入社後をイメージしやすくなります。
  • 求人シーズン以外にも学校と接点を持つ
    先生への挨拶や卒業生の近況報告など、採用するときだけではない関係づくりを。学校との信頼関係は、一度の訪問でできるものではありません。
  • 動画とSNSで、現場の空気を見せる
    求人票だけでは伝わらない、働く人や職場の雰囲気を写真や動画で伝えます。会社名を検索したときに、「どんな会社で、どんな人が働いているのか」が伝わる状態をつくっておきましょう。
塚田 亜弓

塚田 亜弓
採用サポート

職場見学に保護者が同伴されたとき、設備や待遇だけでなく、「そこで働く人たちの表情や関わり方」も大切な情報になります。先輩社員が高校生に自然に声をかけているか、社長が現場の若手の名前を呼んでいるか。そんな日常の様子から、「ここなら安心して働けそう」と感じてもらえることがあります。

だから私は支援先に、「見学対応を総務だけに任せず、若手社員にも案内役をお願いしてみてください」とお伝えしています。数年前に入社した先輩が自分の言葉で仕事を語る姿は、保護者にとっての安心材料になり、高校生にとっては入社後の自分をイメージするきっかけになります。

最初の一人をどう採るか——OBOGがいない学校との関係づくり

高卒採用では、卒業生が働いていることが、学校からの信頼につながることがあります。過去に送り出した生徒が元気に働いていれば、先生にとっても、その会社を知る大切な実績になります。

だからこそ、まず大切なのが「一人目」の採用と、その後の定着です。一人目が入社し、成長していく姿を学校にも伝えていく。その積み重ねが、次の採用につながっていきます。

最初から多くの学校に広げるのではなく、自社との接点をつくりたい学校をある程度絞るのも一つの方法です。地元就職を希望する生徒が多い学校や、自社の業種に関連する学科がある学校などに、職場見学の受け入れや先生との継続的な接点づくりを重ねていく。広く浅くではなく、狭く深く。これが、一人目の採用につなげるための現実的な進め方です。

採用して終わりにしない——定着まで含めた採用設計

採用できたら終わり、ではありません。厚生労働省の調査では、令和4年3月に卒業した新規高卒就職者の就職後3年以内の離職率は37.9%です。3人に1人以上が3年以内に辞めている計算になります。

そして、入社後の定着は学校との信頼関係にもつながります。送り出した生徒が早期に離職すれば、次の紹介に慎重になることもあります。一方、卒業生が元気に働き、成長している姿は、その会社を知ってもらう何よりの実績になります。

だからこそ、高卒採用の成功は入社数だけで測るものではありません。入社後の定着や成長まで含めて採用を設計する。その積み重ねが、学校との信頼や次の採用につながっていきます。

高卒採用でやってはいけないこと
  • ❌ 求人シーズンだけ学校を訪問し、あとは接点を持たない
  • ❌ 職場見学で現場を案内するだけで、働く人と話す時間をつくらない
  • ❌ 育成体制や入社後のキャリアパスを伝えないまま採用する
  • ❌ 年少者に関する労働時間・深夜業などのルールを現場で共有していない
  • ❌ 入社後のフォローをせず、早期離職を「本人の問題」だけで片づける

塚田 亜弓

塚田 亜弓
採用サポート

高卒の新入社員を支援するなかで、私たちが特に気をつけているのが、「誰に相談していいかわからない」という孤立をつくらないことです。初めて社会に出て、年齢の離れた社員が多い職場に入ることもあります。だから支援先には、教育係とは別に、仕事以外のことも相談できる相手を決めてもらっています。

もうひとつ大事なのが、本人が自分の成長を実感できるようにすること。任せる仕事を段階ごとに整理し、「半年前よりできることが増えた」と振り返れるようにする。その記録は、学校への近況報告や翌年の採用活動にも活かせます。定着支援の積み重ねが、次の採用にもつながっていくのです。

まず今月、着手してほしい3つのこと

来年度の採用に向けて、まずはできるところから動き始めましょう。

  • 重点的に関係をつくる学校を3校程度に絞る
    地元就職を希望する生徒が多い学校、関連する学科のある学校、卒業生がいる学校などから、まずは重点校を決めます。広く求人を出すだけでなく、継続的に関係をつくる学校を決めることが第一歩です。
  • キャリアパスと育成計画をA4一枚にまとめる
    1年目・3年目・5年目に、どんな仕事を経験し、どう成長していくのか。本人や保護者にも入社後をイメージしてもらえる資料にします。社内の育成方針を揃える機会にもなります。
  • 年少者雇用のルールを、現場責任者まで共有する
    年少者には、労働時間や深夜業などについて法律上の制限があります。採用担当だけでなく、実際に受け入れる現場までルールを共有し、守れる体制になっているかを採用前に確認しておきましょう。
塚田 亜弓

塚田 亜弓
人事戦略・採用定着

高校生採用では、高校生本人を中心に、学校や保護者からも信頼される関係づくりが大切です。私たちが毎年全国約300社の支援に携わるなかでも、採用活動のときだけではなく、学校や地域との関係づくりを継続している企業の強さを感じます。

学校との関係づくり、保護者への丁寧な情報提供、そして入社後の人材育成。この3つを積み重ね、「ここなら安心して働ける、送り出せる」と思ってもらえる企業になることが、高卒採用では重要です。人が採れない、採用しても辞めてしまうという課題に、採用から定着まで一続きで向き合っていきましょう。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

最後にひとつだけ。年少者保護の規定は、企業活動を縛るための決まりではなく、社会に出たばかりの若者を守るために大人が積み上げてきた約束です。この約束を丁寧に守る会社は、生徒本人にとっても、送り出す保護者と先生にとっても、信頼に値する会社です。

「地域一番の守り」とは、警備や設備の話ではありません。18歳の新入社員を、法律と体制と人の目で守り抜く覚悟のことです。それができる会社に、人は集まります。

この記事の著者
塚田 亜弓
人事戦略・採用定着
塚田 亜弓

採用・定着領域の専門家。500人のキャリアコンサルタントを束ねる組織の運営者。人手不足に悩む中小企業の外部人事部として、採用コスト削減と従業員が活躍する組織づくりを支援する。高卒採用では毎年全国約300社の支援に携わり、生徒本人はもちろん、学校・保護者・企業の三者が信頼関係を築く採用活動をサポート。職場見学の設計、キャリア形成支援、育成体制の見える化を通じて、地方中小企業が大手企業との差別化を実現する取り組みを数多く手がける。人が取れない、辞めていくという課題に対し、プロの視点で採用から定着までを実装する。

HRラボ株式会社
高卒採用支援・年間約300社
人事戦略・採用定着
石川 悠
弁護士(予防法務)
石川 悠

大分県出身、中央大学法学部法律学科卒、九州大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。中小企業顧問業務・破産管財人業務を中心に、予防法務・コンプラ整備・債権回収など30業種以上の幅広い顧問先をサポート。「問題が起きてからでは遅い」という信念のもと、年少者雇用における労働時間・深夜業の制限への対応、危険有害業務の就業制限の確認、必要書類の整備など、若年者を迎える企業の体制づくりを法務面から支援する。経営者が本業に専念できる環境づくりを、法務面から実装する。

弁護士登録 2017年
中央大学法学部卒
九州大学法科大学院卒
年少者雇用・労務予防法務

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参考データ・出典

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