「売上が毎年伸びていて、現場が欠品対応で追われていると言うから、思い切って自動倉庫まで建てたんですよ。けれども、在庫金額が大きく膨らんだだけで、今でも欠品問題は解決してないんです…」——通信販売を主力とする消費財メーカーの50代社長(売上30億、従業員数100人)から、こんなご相談をいただきました。欠品が出るたびに生産管理部門が製造現場と日程調整に追われ、在庫を管理するための人手とコストも膨らみ続けている。こうしたご相談をいただくとき、原因を掘っていくと行き着く先はほぼ同じです。在庫が減らない本当の原因は「需要予測の精度」ではなく「生産計画の立て方」、つまり計画の頻度と粒度にあります。
今日は、在庫6億円を1.7億円まで削減し、最終的には新設したばかりの自動倉庫すら不要になった支援事例をもとに、「生産計画×システム改革」で在庫を適正化する方法を、経営の意思決定の問題としてお伝えします。
倉庫を建てても在庫が減らない、という現象
売上が伸びている会社ほど、在庫の問題は見えにくくなります。売上が増えれば在庫が増えるのは当たり前だ、と説明がついてしまうからです。しかし、売上の伸び以上に在庫が増えているなら、それは成長ではなく構造の問題です。
この状態の会社では、たいてい次の3つが同時に起きています。保管スペースが慢性的に足りず、設備投資で対応している。在庫があるのに欠品が発生し、そのたびに生産計画の変更調整が入る。そして、在庫管理と調整のための業務そのものが増え続けている。
とくに厄介なのが2つ目です。過剰在庫と欠品は、同時に起こります。全体としては在庫が余っているのに、必要なものだけがない。この現象が出ているなら、原因はほぼ間違いなく計画側にあります。
- ❌ 保管スペース不足を設備投資で解決しようとし、固定費が増える
- ❌ 過剰在庫と欠品が同時に発生し、現場の調整業務が膨らむ
- ❌ 「念のため」の安全在庫が各工程で積み上がる
- ❌ 在庫に資金が拘束され、投資や人材採用に回せない
- ❌ 需要が変わっても計画が変わらないため、売れないものを作り続ける
原因は「需要予測の精度」ではなく「計画の立て方」
在庫削減の相談を受けたとき、多くの会社がまず口にするのは「需要予測が当たらない」です。そこでAIによる需要予測ツールの導入を検討される。気持ちはよく分かりますが、私はいつも その前に確認すべきことがあります とお伝えしています。
それは、販売計画と生産計画を、どのくらいの頻度で見直しているかです。多くの製造業では、月単位あるいは半月単位で計画を立てています。理由は単純で、計画の作成が手作業だからです。担当者が数日かけて組み上げる作業を、毎日繰り返すことは物理的にできません。
ここに構造の核心があります。予測が外れることが問題なのではなく、外れたことに気づいてから計画を直すまでに時間がかかることが問題なのです。どんなに精度の高い予測でも必ず外れます。大事なのは、外れた瞬間に修正できるかどうかです。
支援に入るとき、私はまず「予測の精度」ではなく 「計画を最後に見直したのはいつですか」 と聞くようにしています。答えが「月初に立てて、あとは月末まで基本そのまま」であれば、在庫の原因はほぼ特定できたようなものです。
予測が外れること自体は悪ではありません。外れたと分かった瞬間に計画を直せる会社と、次の計画サイクルまで直せない会社。この差が、そのまま在庫金額の差になります。在庫は予測の失敗ではなく、意思決定の遅さの蓄積なんです。
計画リードタイムが、そのまま過剰在庫になる
もう少し具体的に見ていきます。ある会社では、月末時点で翌月分の出荷予定をまとめ、その分を在庫として持つ運用になっていました。計画のリードタイム分が、そのまま在庫として積み上がる構造です。
計算してみると、話は単純です。1か月分の出荷予定を先に在庫として抱えるなら、平均して1か月分の在庫を常に持ち続けることになります。これが半月サイクルなら半月分、日次で回せるなら数日分に縮まります。需要予測の精度をどれだけ上げても、この構造から生まれる在庫は1グラムも減りません。
ここに、各工程の担当者が置く「念のため」の安全在庫が上乗せされます。欠品を出したときに責められるのは現場ですから、余分に持つのは合理的な行動です。個人の判断は正しいのに、全体では在庫が膨らむ。だからこそ、精神論ではなくルールを変える必要があります。
頻度と粒度を変える——半月単位から日次へ
打ち手は明確です。計画の頻度を上げ、粒度を細かくする。この2つだけで在庫は大きく動きます。
計画ルールを変える4つの論点
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頻度:どのくらいの間隔で計画を見直すか
月次・半月次から日次へ。最新の受注・出荷実績を反映して毎日計画を作り直せる状態を目指します。ここが最大の効き目を持ちます。 -
粒度:どの単位で計画を持つか
月単位のまとめから、日単位・品目単位へ。粗い単位で計画を持つと、その期間の変動を吸収するために在庫が必要になります。 -
安全在庫:誰がどの基準で決めるか
現場の判断に委ねたままにせず、品目ごとの変動幅と補充リードタイムから基準を決めます。属人的な「念のため」を仕組みに置き換えます。 -
意思決定ルール:計画が変わったとき誰が何を判断するか
日次で計画が動くなら、変更の承認手順も軽くする必要があります。ここを重いままにすると、せっかくの計画が現場で止まります。
手作業では限界がある。システム化の本当の意味
ここで必ず出てくるのが「毎日計画を作り直すなんて、現場がもたない」という声です。まったくそのとおりで、手作業のままで頻度だけ上げるのは不可能です。だからシステム化が必要になります。
この文脈でのシステム導入は、単なる効率化ではありません。業務ルールそのものを変えるための手段です。生産計画を自動で作成できるようになって初めて、日次で見直すという運用が現実になる。逆に言えば、計画ルールを変える意思がないままシステムだけ入れても、これまでの半月サイクルを少し速く回すだけで終わります。
私が繰り返しお伝えしているのは、DXとはシステム導入ではなく、意思決定のスピードと構造を変えることだという点です。在庫削減はその成果として現れます。目的と手段を逆にしないことが、この種のプロジェクトの成否を分けます。
ここで社長の役割が決定的に重要になります。計画の頻度と粒度を変えるということは、製造・生産管理・営業それぞれの「仕事の前提」を変えるということです。現場からは必ず「今のやり方で回っているのに」という声が出ます。その声を越えてルール変更を決断できるのは経営者だけです。
逆に言えば、経営者が「在庫削減はシステム部門の仕事」と構えてしまった時点で、この改革は止まります。在庫改革はIT投資の顔をした経営改革——私はいつもそうお伝えしています。
事例:在庫6億円を1.7億円へ、自動倉庫が不要になるまで
冒頭でご紹介した消費財メーカーの事例です。通信販売事業の拡大により売上が急成長する一方、在庫は増え続けていました。敷地内に大型の自動倉庫を建設してもなお保管スペースが不足し、在庫管理業務と調整業務が増大。管理コストも膨らんでいました。
欠品が発生すると、生産管理部門が製造現場と日程変更の調整を行う必要があり、現場の負荷は非常に高い状態でした。そして販売計画・生産計画は 半月単位で手作業により作成 されており、需要変動に対応できない構造になっていました。
実施したのは、生産計画をシステムで自動作成する仕組みへの変更と、日次で需要・実績に応じて計画を見直す運用への転換です。作業を速くしたのではなく、計画の頻度そのものを変えました。
結果として、在庫は 6億円から1.7億円へ 大幅に削減されました。同時に業務効率も改善し、最終的には 新設した自動倉庫が不要となるレベルまで構造が変化 しています。設備投資で解決しようとしていた問題が、計画ルールの変更で消えたということです。
- ✅ 半月単位・手作業だった生産計画の作成をシステムで自動化
- ✅ 需要・実績に応じて日次で計画を見直す運用へ転換
- ✅ 計画変更に伴う現場との調整業務そのものを削減
- ✅ 結果として在庫6億円→1.7億円、自動倉庫が不要な水準まで構造が変化
在庫はキャッシュ。浮いた資金で何ができるか
在庫削減の効果は、保管コストや業務負荷だけではありません。むしろ経営にとって大きいのは 資金の解放 です。在庫は、形を変えた現金です。棚に積まれている限り、その資金は何も生みません。
先ほどの事例では4億円以上の在庫が減りました。これは、それだけの運転資金が手元に戻ってきたということです。設備投資に回すのか、人材採用や賃上げに使うのか、新規事業の原資にするのか。借入を増やさずに、投資余力が生まれる——在庫改革が経営インパクトの大きいテーマである理由がここにあります。
加えて、建てるはずだった倉庫が不要になれば、その投資と維持費も丸ごと浮きます。在庫問題を「現場の管理の問題」として現場に預けてしまうと、この経営レベルの効果は永遠に取りに行けません。在庫は、経営が扱うべきテーマです。
まず今月、着手してほしい3つのこと
大きな改革に見えますが、現状把握は今月中にできます。
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在庫が「何日分」あるか計算する
金額だけ見ていても判断できません。品目ごとに、直近の出荷ペースで何日分の在庫を持っているかを出してください。極端に多い品目が浮かび上がってきます。 -
販売計画と生産計画の「見直し頻度」を確認する
月次か、半月か、週次か。そして1回の作成に何人日かかっているか。この2つの数字が、いまの在庫水準を説明してくれます。 -
直近3か月の欠品と、そのときの調整工数を洗い出す
在庫があるのに欠品が起きているなら、原因は計画側です。調整に何時間使ったかまで出すと、改革の費用対効果を経営として判断できます。
在庫削減の目的は、倉庫をきれいにすることではありません。在庫に固定化されたキャッシュと人手を、成長への投資に振り向け直すことです。売上が伸びている今だからこそ、在庫の構造改革は大きな効果を発揮します。
システムを作る前の戦略構築が私の仕事の中核です。在庫の問題も同じで、ツール選定の前に「計画をどう変えるか」という意思決定を固めることが成否を分けます。御社の在庫が、次の一手の原資に変わるお手伝いができれば嬉しいです。
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参考データ・出典
本記事で引用した主要データの一次ソースです。最新の数字は各リンク先でご確認いただけます。なお、在庫金額(6億円→1.7億円)は当社支援先の実績値です。
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経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)
2024年の物販系分野のBtoC-EC市場規模は15兆2,194億円、EC化率は9.78%で前年から0.40ポイント上昇 -
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」
正社員の人手不足感50.6%。調整業務の増大が現場負荷につながる背景として -
中小企業庁「2026年版 中小企業白書」
中小企業の経営環境、コスト構造の把握と資金繰りに関する分析
「倉庫を建てる前に、一度ご相談いただきたかった」と思うケースは本当に多いです。倉庫の増設は数千万円から億単位の投資ですが、投資したぶんだけ「在庫を持てる能力」が上がり、資金が眠ってしまう。原因側の計画ルールを直さない限り、増えた容量は数年で在庫に埋まります。
私が最初に見るのは倉庫ではなく執務室です。計画を「誰が・どの頻度で・どの単位で」決めているか。在庫は倉庫で生まれるのではなく、計画を決める机の上で生まれているからです。