なぜ忙しいのに儲からないのか?利益が見えない会社が陥る“どんぶり経営”の正体
収益構造・経営戦略

なぜ忙しいのに儲からないのか?利益が見えない会社が陥る“どんぶり経営”の正体

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

「売上は毎年伸びていて、現場もフル稼働なんです。なのに、決算を締めると利益がほとんど残らない」——とある地方でWeb制作とシステム開発を手がける50代の経営者(売上5億・従業員50名)からのご相談です。見積は各営業のカンと経験で作成、また営業が開発メンバーに案件の相談をすると多忙で請けられないと言われ、安易に外注を使う。決算後に正社員一人当たりの売上を計算するとほとんど儲けがなく、本当にフル稼働だったのかすら分からないという状態でした。

最初にお伝えしたいのは、利益が出ない原因は「仕事の量」ではなく「見えないこと」にあるということ。見積・原価・稼働が分断されたままでは、どれだけ忙しくても利益はコントロールできません。

今日は、頑張っているのに儲からない会社が陥っている 「どんぶり経営」の構造 を解きほぐし、案件単位で「いくらで受注し、どれだけコストがかかり、いくら利益が出るのか」を見える形にするプロジェクト原価管理・管理会計の始め方を、Web制作会社の支援事例と契約面の法的視点を交えてお伝えします。

この記事の担当
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル|原価計算のシステム化と事業再生に多数の実績。見積・原価・稼働をつなぐ管理会計の設計から実行まで伴走。

石川 悠

石川 悠
弁護士(予防法務)|業務委託契約の整備を通じて、価格改定・支払条件の面から会社の利益とキャッシュフローを守る。

「忙しいのに儲からない」は、売上の問題ではない

売上が伸びているのに利益が残らない会社には、共通の症状があります。案件ごとの採算を聞いても即答できない。見積の根拠が担当者ごとに違う。誰がどの案件にどれだけ時間を使っているか分からない。そして「人が足りない」という理由で外注が増えていく。この4つが揃っていたら、まず間違いなく どんぶり経営 の状態です。

この状態が続くと何が起きるか。売上を伸ばそうと案件数と外注を増やしますが、原価が見えていないので利益は改善しません。むしろ、採算の悪い案件が混ざるほど悪化します。忙しさだけが増え、人材投資や新規事業に回す資金が生まれない。成長しているように見えて、実は成長が止まる——これが最悪のシナリオです。

コスト構造を把握できていないことの影響は、価格交渉の場面にも直結します。2026年版の中小企業白書では、製品・商品・サービス別に原価を管理している企業のほうが、全社単位でしか把握していない企業より価格転嫁率が高い傾向が示されています。値上げを申し出るにも、根拠となる原価データがなければ交渉のテーブルにすら着けない、ということです。

54.2%

直近の価格転嫁率(2026年3月フォローアップ調査)

50.0%

労務費の転嫁率(原材料費55.7%・エネルギー48.9%)

90.7%

価格交渉が行われた割合(交渉自体は当たり前になっている)

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

誤解のないようにお伝えしたいのですが、どんぶり経営に陥っている社長さんは、決して怠けているわけではありません。むしろ 真面目に現場で働いている社長ほど陥りやすい んです。自分もプレイヤーとして案件に入っているから、現場感覚で「この案件はたぶん儲かってる」「あれはちょっと厳しかった」と分かった気になれてしまう。

ところが売上が数億円規模になり、案件数と人数が増えると、感覚でカバーできる範囲を超えます。感覚は間違っていなくても、感覚が届かない領域が収益性を落としていく。これが成長期の会社で利益率が下がる典型的なメカニズムです。

見積・原価・稼働が分断されているという構造

どんぶり経営の正体を、もう少し構造で捉えてみます。プロジェクト型のビジネスでは、利益に関わる情報が3か所に分かれて存在しています。見積(いくらで受注したか)・稼働(誰がどれだけ動いたか)・原価(いくらかかっているか)の3つです。

問題は、この3つが別々の場所で、別々の担当者によって、別々の粒度で管理されていることです。見積は営業担当のExcel、稼働は現場のスケジュール表、原価は経理の会計ソフト、。どれも存在はしているのに、案件という単位でつながっていない。だから 「この案件はいくら儲かったのか」という最も単純な問いに、誰も答えられない のです。

会計上の損益は月次や年次で出ています。しかしそれは全社の合計値であって、案件単位ではありません。合計では黒字でも、その中に大きく赤字を出した案件が混ざっていれば、次に同じ条件で受注したときにまた同じ損失を出します。合計値の管理では、再発を防げないのです。

分断されたままの会社で繰り返されること
  • ❌ 見積の根拠が担当者ごとに違い、安く出した案件ほど現場が疲弊する
  • ❌ 追加作業が発生しても、追加費用の請求判断ができない
  • ❌ 稼働が見えないため「人が足りない」と判断し、外注費が膨らむ
  • ❌ 赤字案件が特定できないので、同じ失敗が翌年も繰り返される
  • ❌ コスト根拠がないため、値上げ交渉のテーブルに着けない

利益は結果ではなく設計——見積の段階で決まっている

ここが、この記事で最もお伝えしたい考え方です。利益は、案件が終わったあとに集計される「結果」ではありません。見積を出した瞬間に、その案件の利益はほぼ決まっています。

見積とは本来、「この案件に誰を何時間投入し、外注にいくら払い、その結果いくら残すか」という設計図です。ところが多くの会社では、見積は「相場観と過去の類似案件から出す価格の提示」になっています。設計図がないまま工事を始めているようなもので、これでは終わってみないと利益は分かりません。

設計図としての見積に変えるには、投入する人と時間を明示する必要があります。そのために欠かせないのが 役割・ランク別の時間単価 です。ディレクターは1時間あたりいくら、デザイナーはいくら、エンジニアはいくら。この単価が決まっていないと、投入時間を書いても金額に変換できません。

森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

ここでよくいただく質問が「どの管理ツールを入れればいいですか」です。私の答えは決まっていて、最初はExcelで十分、むしろExcelから始めるべきです。原価計算のシステム化は私の専門分野ですが、それでも仕組みが固まる前にツールを入れることには反対します。自社の単価表・見積フォーマット・承認ルールが固まっていない段階でシステムを入れると、ツールの仕様に業務を引きずられて、結局使われなくなるからです。

まずExcelで「単価×時間の見積」と「案件別の予実」を3ヶ月回してみる。運用が定着して、手作業の限界を感じたところでシステム化する。仕組みが先、システムは後。この順序を守った会社は、ツール投資も無駄になりません。

仕組みの作り方:単価設定・投入時間・承認フロー・予実管理

案件単位で利益をコントロールする仕組みは、4つの部品でできています。順番に導入していけば、特別なシステムがなくても動き始めます。

利益をコントロールする4つの部品

  • 部品1:役割・ランク別の時間単価を決める
    職種と等級ごとに、1時間あたりの単価を設定します。これが見積と実績をつなぐ共通言語になります。まずは職種3〜4区分、ランク2〜3段階の粗い表で構いません。
  • 部品2:見積時に「人別の投入時間」を明示する
    誰が何時間関わるのかを見積の中に書き込みます。ここで初めて、見積が価格の提示から利益の設計図に変わります。外注費も同じ粒度で載せます。
  • 部品3:見積の承認フローを設ける
    一定金額以上、あるいは想定利益率が基準を下回る案件は、必ず上長の承認を通す。妥当性をチェックする関門がないと、担当者は受注を優先して安値に流れます。
  • 部品4:日々の実績工数を集めて、予実を比べる
    見積時の想定時間と、実際にかかった時間を案件単位で突き合わせます。差が出た案件は必ず原因を確認する。この振り返りが、次の見積の精度を押し上げます。
工数入力を現場に定着させるコツ
  • ✅ 入力項目は「案件・作業区分・時間」の3つまでに絞る
  • ✅ 入力は日次、所要1分以内で終わる形にする
  • ✅ 集計結果を現場に返す(見せない数字は入力されなくなる)
  • ✅ 最初はExcelやスプレッドシートで始め、定着してからシステム化する

月次損益の精度を上げる——進行基準と発生基準

案件単位の管理と並行して、月次損益そのものの精度も上げる必要があります。ここで効くのが、売上は進行基準、外注費は発生基準で管理するという考え方です。

複数月にまたがる案件で、売上を完了時に一括計上し、外注費は支払ったタイミングで計上していると、月ごとの損益が実態からずれます。作業が進んでいる月は費用だけが出て赤字に見え、完了した月だけ大きく黒字に見える。これでは月次の数字を見ても経営判断ができません。

進行度合いに応じて売上を認識し、外注費は発生したタイミングで計上する。こうするだけで、月次損益は現場の実感に近づきます。月次で正しく見えるようになると、期末を待たずに手を打てる——これが管理会計を入れる本当の狙いです。

事例:Web制作会社をどんぶり経営から利益体質へ

支援先の事例です。Web制作会社で、売上は順調に伸びていました。しかし見積は担当者ごとの判断に依存しており、工数や原価の明確な基準がありません。案件ごとの採算は把握できておらず、スタッフの稼働状況も全社では見えていませんでした。その結果、「人が足りない」という認識から外注を増やす一方で、収益性は落ちていくという状態に陥っていました。

着手したのは、先ほどの4つの部品です。まず役割・ランク別に時間あたりの単価を設定し、見積の段階で人別の投入時間を明確化しました。あわせて承認フローを設け、見積の妥当性をチェックする関門を作りました。そして日々の実績工数を収集し、プロジェクト単位での予実管理ができる状態にしました。

さらに、管理会計上、売上は進行基準、外注費は発生基準で管理することで、月次損益の精度を高めています。これらを まずExcelで仕組みとして整備し、運用が回り始めてからシステム化 しました。結果として利益は徐々に安定し、収益水準は大きく改善しています。

この事例で実施した5つのこと
  • ✅ 役割・ランク別の時間単価の設定
  • ✅ 見積時に人別の投入時間を明確化
  • ✅ 見積の承認フローによる妥当性チェック
  • ✅ 実績工数の収集とプロジェクト単位の予実管理
  • ✅ 売上は進行基準・外注費は発生基準での月次管理(Excel先行、後からシステム化)
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

この会社で一番変わったのは、実は数字よりも 月次会議の会話 でした。以前は「今月の赤字の原因は恐らく外注費一括払いの影響だと思う」「来月は○○案件の完成売上が計上されるので利益は大きいはず」という曖昧かつ言い訳ばかりの話でした。それが、正確な月次決算数値と案件別の予実が見えるようになってからは「この案件、予定より工数が超過してるが原因は何か」「この単価では受けない方がいいのでは」という 利益の話 が出るようになったんです。

数字が見えると、社長が指示しなくても現場が利益を意識して動き始める。管理会計の導入効果というのは、帳票が増えることではなく、組織の意思決定の質が変わることなんだと、この事例が教えてくれます。

契約書で守る利益——価格改定条項と支払条件

ここまでは社内の仕組みの話でした。しかし利益は、社外との取り決め——つまり契約書によっても大きく左右されます。ここからは石川先生にお願いします。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

利益を左右するコストの問題に対して、契約書で対応できる代表的な領域が 価格改定条項 です。外注費・原材料費・労務費などのコストが著しく変動した場合に、価格の見直しを協議できる旨をあらかじめ契約書に定めておく。この一文があるかないかで、コスト上昇局面での交渉の入口がまったく変わります。条項がなければ「契約時の金額でお願いします」と言われて終わりですが、条項があれば協議を求めることは契約上の正当な権利になります。

追い風になるのが、2026年1月1日に施行された 中小受託取引適正化法(取適法。旧・下請法) です。同法では、発注側が協議に応じないまま一方的に代金を決定することが禁止されました。つまり「価格の話し合いを求めたのに無視された」という状況自体が、法的に問題のある行為になり得ます。森下さんが指摘された通り、原価が見えている会社は交渉の根拠を数字で示せます。社内の原価管理と契約書の価格改定条項は、価格交渉の両輪だとお考えください。

もうひとつ、忘れられがちなのがキャッシュフローの観点です。利益が出ていても、入金より先に支払いが来れば資金は苦しくなります。

石川 悠

石川 悠
法務サポート

もう一つ、見落とされがちなのが 支払いスパン(支払条件)を契約書で整えておくことです。制作業でよくあるのは、お客様からの入金は納品後なのに、外注先への支払いは先に発生する、という構造です。案件が大きくなるほど立て替え負担が膨らみ、利益は出ているのに現金が足りない、という事態を招きます。着手金・中間金等、段階に応じて細かく入金のタイミングを設定することや、検収期限の明確化を契約段階で行い、入金と支払いのタイミングのズレを小さくすることが、キャッシュフローを適切に保つために必要です。

あわせてご注意いただきたいのは、外注を活用している会社は ご自身が「発注側」として取適法の適用を受けうる立場でもあるということです。同法では手形払い等による代金支払いが禁止されるなど、支払条件に関するルールが強化されています。外注先への支払条件が法令に適合しているかの点検は、コンプライアンスであると同時に、外注先との信頼関係、ひいては安定した供給体制を守ることにもつながります。

利益とキャッシュを守るために契約書で確認する項目
  • ✅ 価格改定条項(コスト変動時の協議・見直しの根拠)
  • ✅ 支払サイトと支払方法(手形等の可否・入金までの日数)
  • ✅ 着手金・中間金の設定(長期案件の資金繰り)
  • ✅ 業務範囲と成果物の定義(追加作業の線引き)
  • ✅ 仕様変更時の追加費用の取り扱い

まず今月、着手してほしい3つのこと

管理会計の整備は大がかりに聞こえますが、入口は小さく作れます。

  • 直近で完了した案件を5つ選び、粗い採算を出してみる
    受注金額から外注費と、関わったメンバーの概算時間×仮の時間単価を引く。それだけで、儲かった案件と赤字案件がはっきり分かれます。ここが出発点です。
  • 役割・ランク別の時間単価を、粗くていいので決める
    完璧を目指さないこと。職種3〜4区分、ランク2〜3段階で十分です。この表が、見積と実績をつなぐ共通言語になります。
  • 主要な取引先との契約書に、価格改定条項があるか確認する
    更新時期が近い契約から順に見直します。条項がない契約が多ければ、優先順位をつけて弁護士に相談してください。
森下 剛靖

森下 剛靖
DX・戦略コンサル

最後に、この記事の要点をもう一度だけ繰り返します。経営とは、売上を追うことではなく、利益をコントロールすることです。売上は市場やお客様の都合にも左右されますが、利益の構造——いくらで受け、いくらのコストで作り、いくら残すか——は、経営者が設計できる領域です。設計できるものを感覚に委ねているのが、どんぶり経営の正体です。

システムを作る前の戦略構築が私の仕事の中核ですが、利益管理もまったく同じで、仕組みの設計が先、ツールは後です。「忙しいのに儲からない」から「忙しさがちゃんと利益になる」へ。その転換は、案件の利益を1枚の表に見える化するところから始まります。

この記事の著者
森下 剛靖
DX・戦略コンサル
森下 剛靖

DX・ITコンサル、ビジネスコンサル、人材育成を三本柱に活動。大手企業との実績多数。原価計算のシステム化や事業再生、生成AIを活用した新規事業立ち上げ支援など、戦略策定から実行まで伴走する。大手コンサルの知見を活かし、システム導入前に「勝てる戦略」を構築。プロジェクト型ビジネスにおける時間単価の設計、見積段階での利益設計、実績工数にもとづく予実管理まで、管理会計の仕組みづくりを Excel 先行・システム化は後という現実的な順序で支援している。本業だけで発展していくことが難しい時代の次の一手を、経営者研修やリーダー育成を通じて共に作り上げる。

エイドリームコンサルティング株式会社
管理会計・原価計算システム
事業再生・戦略コンサルティング

石川 悠
弁護士(予防法務)
石川 悠

大分県出身、中央大学法学部法律学科卒、九州大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。中小企業顧問業務・破産管財人業務を中心に、予防法務・コンプラ整備・債権回収など30業種以上の幅広い顧問先をサポート。中小企業の存続と発展を法務面からサポートするという信念のもと、業務委託契約における価格改定条項の設計、支払条件の整備、仕様変更時の追加費用の取り決めなど、契約面から会社の利益とキャッシュフローを守る予防法務を提供する。経営者が本業に専念できる環境づくりを、法務面から実装する。

弁護士登録 2017年
中央大学法学部卒
九州大学法科大学院卒
契約書整備・予防法務

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参考データ・出典

本記事で引用した主要データの一次ソースです。最新の数字は各リンク先でご確認いただけます。